
2026年9月6日
皇后杯JFA第48回全日本女子サッカー選手権大会 東北大会 2回戦
山形明正高校 1-6 常盤木学園高校
得点:[山形明正]伊藤仁愛(後半18分)/[常盤木学園]津吹菜帆(前半14分)、富岡來未(前半32分、後半26分、後半41分)、藤田瑠佳(後半2分、後半34分)
※先制点の得点者は公式記録では榊原汐璃。映像確認では津吹菜帆。
皇后杯JFA第48回全日本女子サッカー選手権大会東北大会は9月6日、TDKスポーツセンターで2回戦が行われ、山形明正高校(山形)と常盤木学園高校(宮城)が対戦。常盤木学園が6-1で勝利し、初戦を突破した。
主役となったのは、ハットトリックを達成した富岡來未だ。1-0で迎えた前半32分に追加点を挙げると、後半にも2点を加えた。センターフォワードの引田千聖と縦の関係を築いて前線で攻撃に絡み、試合前のウォーミングアップから味方へ積極的に声を掛ける姿も目立っていた。
引田千聖との縦関係、スピードを生かした1点目
常盤木学園は、前線で起点となるFW引田千聖を軸に攻撃を組み立てる。序盤は前線へのパスが合わない場面もあったが、時間がたつにつれてセカンドボールを拾い、攻撃を続ける時間が増えていく。
前半14分、榊原汐璃のパスを中央で受けたボランチの津吹菜帆が、ペナルティーエリアの外から右足で決めて先制する(公式記録の得点者は榊原)。
2トップの一角としてプレーする富岡來未は立ち上がりからスペースへ走り込み、パスを引き出していた。前半9分にはロングフィードを受けてペナルティーエリアへ進入し、右へ走り込んだ津吹へマイナスのパス。前半11分には、守備ラインから津吹を経由した2本のパスでエリア右へ抜け出し、シュートを放っている。
富岡は試合後、引田との関係をこう説明した。
「千聖は体が強いので、収めて落としたボールに自分が反応して前に走ります。ビルドアップの時はしっかり縦関係を作るようにしています」
引田が下がって受け、空いたスペースへ2列目から飛び出す。この日何度も見られた形について、富岡は「話し合っていたことができました」と手応えを口にする。以前は築舘海藍がセンターフォワードに入り、富岡はトップ下に1人で入る形だったが、この試合では引田がセンターフォワード、築舘が右ウイングを務めた。今の形の良さを聞くと「2トップだと前からプレスを掛けやすい。そこで勢いを自分たちで持ってこられるし、クロスに対して中の枚数も増やせる」と答えた。
前半31分、常盤木学園は細かくパスをつないで連続シュートを放つが、山形明正GK新田瑠衣香が体ではじき出す。それでも直後に左サイドで再びボールを拾い、FW西田野々花の落としをMF藤田瑠佳がゴール前へ送る。抜け出した富岡はエリア左からドリブルで運び、GKとの1対1を右足で冷静に決めた。
「自分の特徴であるスピードや裏抜けをイメージして縦パスをもらい、シュートはニアに流すイメージでした。イメージ通りに持っていけました」
オフサイド直後の得点、カウンターでハットトリック達成

後半も常盤木学園は開始早々に試合を動かす。後半2分、富岡のくさびの落としから始まった攻撃で、こぼれ球も富岡が収めてつなぎ、最後は藤田が左足のダイレクトシュートで3-0とした。
前日5日の1回戦で八戸学院大学(青森)を3-2で破った山形明正も、粘り強く対抗する。後半13分には、エリアへ進入した富岡にDF浅岡幸那が体を入れてシュートを許さない。後半18分、MF長谷川杏の左足シュートを常盤木学園GK金濱加依がはじくと、ゴール前へ走り込んだMF伊藤仁愛が押し込んで1点を返した。
失点について富岡は「無失点でいこうと話していたので、自分たちでも焦りが見えた。でも、みんなで立て直して全力でいきました」と振り返る。
後半25分、藤田のパスに走り込んだ富岡がネットを揺らすが、オフサイドの判定。本人も裏抜けを狙っていたと話し、「まだまだです」と課題を口にした。
それでも富岡は、プレー再開直後の攻撃で再びゴール前へ走る。山形明正のロングボールを榊原がヘディングで前へ送り、走り込んだ引田がエリア右へ進入。GK新田が引田への対応に出たところで横パスが入り、富岡は相手のチェックを受けながら粘り強くシュートを放つ。守備者がかき出したかに見えたが、ボールはゴールラインを越えていた。後半26分、チーム4点目のゴールである。
「本当は流してドーンと打ちたかったんですけど、ちょっとごちゃっとなって。ラッキーみたいなゴールでしたが、入って良かったです」
試合全体を振り返り、富岡は「自分が前へ走って、点を決めて流れを変えようと思っていた」とも話している。
後半34分に藤田が5点目を奪い、迎えた後半41分。山形明正のコーナーキックをしのいだ常盤木学園がカウンターに出る。自陣のペナルティーエリア付近で富岡が前線へ大きくクリアし、自らも相手ゴール前まで走る。クリアボールに対応しようとした相手DFに西田が寄せて右へつなぎ、交代出場したばかりのFW谷川莉愛がドリブルで運んでゴール前のスペースへ。走り込んだ富岡が右足のワンタッチで合わせ、ハットトリックを完成させた。
「自分がクリアして、仲間が運んでいるのが見えたので、カウンターだと思いました。スピードを生かしてダッシュして、ゴール前に突っ込んだら取れました」
ボールを送り出した後も足を止めず、最後は自ら仕留める。本人が特徴に挙げるスピードと裏抜けが、1点目と3点目にはよく表れていた。
チームを動かす声

筆者が富岡に話を聞きたいと考えたのは、ハットトリックを達成したからではない。以前から、周囲への積極的な働き掛けが気になっていたからだ。
6月の宮城県高校総体準決勝。0-0で迎えた後半開始から出場した富岡は、ピッチに入るとすぐに周りの選手へ声を掛け、チームを鼓舞していた。その後、常盤木学園は得点を奪って勝利している。試合中に限らず、ピッチの外でも気づいたことがあれば自分から周囲に話し掛ける。そんな姿が以前から印象に残っていた。
この日も、ウォーミングアップ中にゴール前から味方を引き締める声が聞こえていた。富岡は、普段から意識していることをこう話す。
「勝つには絶対、一丸となることが必要です。自分が中心になって盛り上げたり、一人ひとり、その日の気分や状態が違うと思うので、そういう子には声を掛けたりして、全員を持ち上げるようにしています。いい雰囲気でやった方が楽しいし、勝てるので、そこは意識しています」
ウォーミングアップでの声にも理由があった。常盤木学園は長時間の移動を経て前日は宿泊し、この試合に臨んでいた。
「長時間の移動の後だと、体が重いというか、頭も少し追いつかない感じがしたので、一旦引き締めようと思いました。そういう時はきつい言葉も掛けますが、みんなを心から目覚めさせるというか、戦う意識を持とうと思っています」
6月の準決勝についても「点を取らないと勝てないので、自分が交代して流れを変えるという勢いで、チームを勝ちに持っていこうと思って入りました」と振り返る。9月6日の試合でも、ハーフタイムにはキャプテンの藤田を中心に目標を再確認し、富岡も声を出してチームを盛り上げたという。
親元を離れて選んだ常盤木学園、最後の選手権へ
富岡は岐阜県飛騨市の出身(飛騨AG FCDream)。常盤木学園を選んだのは、なでしこジャパンで主将を務めた熊谷紗希をはじめプロ選手を多く輩出し、寮生活やグラウンドなどの環境も整っていたから。「親と近いと甘えてしまう」と、あえて厳しい環境を求めて親元を離れた。
入学当初は「きつかったです」と振り返る。身の回りのことを一人でこなしながら、1年生の頃は試合にほとんど絡めず、ついていくことに必死だった。「出たいと思いつつも、実力不足を思い知らされました」。小柄で線が細い自分を変えようと、まずは走れる体づくりに取り組んだ。仲間がいたから乗り越えられたと話し、今は「全然楽しいです」と言う。
最上級生としての責任感。そして昨年の敗戦で味わった悔しさが、富岡を突き動かしている。
「去年も県総体で負けていますし、選手権も宮城県から2校出られたので行けたんですけど、(決勝で)負けてしまっているので。だから今年こそ、使命感というか、絶対に負けたくないという思いが、さらに自分を動かしたと思います」
昨年の全日本高校女子サッカー選手権宮城県大会で、常盤木学園は決勝で聖和学園に敗れた。これまでは宮城県から2校が全国大会に出場でき、準優勝でも全国へ進めた。しかし、2026年度の第35回大会からは各都道府県1校の代表に完全移行し、県大会で優勝しなければ全国大会には出場できない。
2025年度の第34回大会まで、聖和学園は第1回から34大会連続、常盤木学園は28大会連続で全国大会に出場しているが、今年は両校がそろって連続出場を続けることはできない。そのプレッシャーについて聞くと、富岡は「選手権の話になるたびに、そういう話が出てきます。去年からずっと思っていましたし、(プレッシャーも)あります」と率直に答えた。
最後のシーズンに思い描いているのは、自らの力でチームを勝たせることだ。
「まずは自分の点で勝たせること。みんながいての常盤木ですが、その常盤木を勝たせるのが自分だと、みんなが思ってくれるぐらいになりたい。声でもプレーでも、点を取ったり、そういうところを思ってやっています」
選手権の県大会に向けては「スピードや裏抜けをもっともっと極めたい」と話す。チームとしての完成度を高め、「もう負けなしで進めるように、ここから上げていきたい」。声とゴールで常盤木学園を勝たせる。最上級生として迎えた最後のシーズン、富岡はその思いを胸にピッチを駆ける。